不安定
アスレチックは得意だ。
細い棒の上だって歩けるし、木の板で川を渡れる。
ただし、ロープをよじ登るのは苦手だ。
木の板で川を渡る時、最初の一個だけは、しっかり固定されている。
目の前には、沈みそうにゆらゆらと、大きく揺れている不安定な板。みんなその手前で止まる。
後ろがつっかえる。押されて、落ちて泣いちゃった女の子。
またつっかえる。
私は、安定とか、安心なんてものが、この世からなくなればいいと思っている。
みんなあのゆらゆらした木の板に乗って、安全な場所を奪い合うのではなく、
落ちたら落ちたでびしょ濡れのまま、ずっとあの板の上で揺れていればいいと思う。
だって、不安定であるのが当たり前なら、それは不安じゃないんだから。
明日の天気は、変わるもの。明日の温度も変わるもの。犬は動き回るし、食べ物は腐る。それを毎日、明日はどうなるだろうと心配して思い悩む人は多分いない。
なのに、仕事がなくなったらとか、電車が遅れたらとか、お金を貸したらとか、とそんな些細なことで怒鳴るやつも、泣くやつも、絶望するやつもいる。
私は、この世の全てのものが不安定で、不安心で、明日のことなど何も分からない世の中になればいいのにと思う。